眼内レンズの種類と費用


  眼内レンズは若い人の水晶体のように厚くなったり薄くなったりしてピントを調節する力がありません。老眼が進んだ状態と同じで「ピントのあう幅がせまい」ため、どの距離もハッキリみえるというわけではなく、「ピントのあわない距離をみる場合は眼鏡を使う」必要があります。
  眼内レンズには大きく分けて「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」があります。患者さんの求めるライフスタイルとそれぞれの眼内レンズの特性をふまえて、眼内レンズの種類を決定します。

単焦点眼内レンズ(健康保険適用) 

一般的に使用されるのは単焦点眼内レンズです。
どの距離にピントをあわせた目にするかを術前検査で眼内レンズの度数を決定します。



通常は「ピントを遠方(無限遠)~中間距離(2~3m)に合わせた」眼内レンズを挿入して、術後に老眼鏡を使っていただく場合が多いですが、左右のバランス、手術前の度数、御本人の御希望、職業上の理由などにより、「ピントを近く(30~40cm)、もしくは中間距離(50cm~1.5m)に合わせた」眼内レンズを挿入する場合もあります。ピントを近くにあわせた場合は「普段は眼鏡をかけ、手元を見るときは外す」ということになります。乱視の強い方は遠用と近用の眼鏡を使いわけていただく必要があります。


 テクニス アイハンス・テクニス アイハンス トーリック(健康保険適応)

新しいコンセプトの単焦点眼内レンズ

従来の単焦点よりも見える範囲を広げたレンズです。焦点を一箇所に集中させる単焦点レンズよりは見え方の質は低下してしまいます。手元を見るためには眼鏡が必要になります。健康保険適応であるため費用負担は少なくて済みます。

   


レンティス コンフォートレンティス コンフォートトーリック(健康保険適応)

保険適用の多焦点眼内レンズ

2つの単焦点レンズを組み合わせた構造の眼内レンズです。遠くと中間(約1m)にピントが合います。よって手元を見るためには眼鏡が必要です。単焦点レンズと比較すると、焦点を2つに分ける影響で見え方の鮮明さ、色の濃淡(コントラスト)の感度はわずかに低下してしまいます。ハロー・グレアやゴースト現象といった特殊な見え方が出ることもあります。運転される方や、多少見え方の質が落ちても保険診療内でなるべく広い範囲を見たい方におすすめです。

 
 


 
世帯収入や年齢により上限や還付があります。(例:後期高齢者 一般の方 上限 月額18000円)
≫ 詳しくはこちら(全国健康保険協会・高額療養費制度)


多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズは、「なるべくメガネをかけずに」より快適な生活ができることを目指して開発されました。 平成19年に厚生労働省の承認を得て、その後にも様々な多焦点眼内レンズが登場しています。
多焦点眼内レンズは、遠方と近方の広範囲にピントが合う反面、単焦点眼内レンズに比べるとピントが甘い、夜間に車の対向車などのライトがにじんで見えたりする(グレアハロー)などの欠点がありましたが、最近ではこれらの欠点を補う累進焦点眼内レンズも登場しています。
ただし多焦点眼内レンズは必ずしも全ての人にあうわけではありません。
保険がきかないため、手術費用は自費となるため、単焦点眼内レンズと比べるとかなり高額になります。自分のライフスタイルにあった特性の眼内レンズを選択できるように医師やスタッフとよくご相談ください。



  回折型多焦点レンズ


商品名


構造&焦点


エネルギー配分


特徴


暗所ハローグレア


クラレオン
パンオプティクス
 
 
選定医療 ○

 
 
 
 
 
回折型3焦点
∞・60cm・40cm

 
 
遠44%
中22%
近22%

光学ロス
12%

2022年1月に厚生労働省認可。2019年に厚生労働省認可された日本国内で最も使用実績があり海外での使用実績も多いパンオプティクスを改良したレンズ。3焦点構造であるが80cmあたりもピークがあり、4焦点レンズ的な性格をもつ。米国Alcon社製。国内在庫あり。
詳細を見る


 
 
 
 
 
少ない

  回折型多焦点レンズ


商品名


構造&焦点


エネルギー配分


特徴


暗所ハローグレア


テクニス
シナジー
  
 
選定医療 ○

 
 
 
 
 
ハイブリッド回折型
2焦点
+焦点拡張

 
 
 
 
 
 
※未公表

2018年に海外で先行発売され2020年厚生労働省認可レンズ。遠~中の質の良いテクニスシンフォニーにテクニスマルチの手元の見やすさをミックスした光学設計。米国Johnson & Johnson VISION社製。国内在庫あり。

 
 
 
 
 
 
あり

  回折型多焦点レンズ


商品名


構造&焦点


エネルギー配分


特徴


暗所ハローグレア


インテンシティー
 
 
選定医療 ×

 
 
フーリエ
回折型
5焦点
∞・133cm・80cm・60cm・40cm

 
 
遠42%
中25.75%
近25.75%

光学ロス
6.5%

2019年11月CEマーク取得。DLUテクノロジーを採用した最新の5焦点眼内レンズ。従来の3焦点に比べ光学ロスが少なく、あらゆる場面で見え方の質が良い。Hanita Lenses社製。

 
 
 
 
少ない

  分節屈折型多焦点レンズ


商品名


構造&焦点


エネルギー配分


特徴


暗所ハローグレア


レンティスMplis
 
選定医療 ×

 
 
分節屈折型
2焦点
∞・40cm
∞・60cm

 
 
遠55%
近45%

光学ロス
5%

従来の回折型に比べて暗所での光の滲みが少なくコントラストが良い。0.01D刻みの精度でオーダーメイドで1枚ずつ製作される。 ドイツ Oculentis社製。ドイツからの直輸入となります。

 
少ない

扇型の
ゴーストが
でることあり

多焦点眼内レンズ手術の費用


選定療養と自由診療

2020年4月より、多焦点眼内レンズ手術の選定療養が開始されました。「単焦点眼内レンズでの白内障手術費用(保険適応)」に「レンズ代+追加検査の差額(自費負担)」で多焦点眼内レンズ手術が受けられます。ただし、「対象となるのは厚生労働省認可のレンズのみ」ということになります。
一方、厚生労働省未認可の多焦点眼内レンズを使用する場合」自由診療となり、「値段が高くてもニーズに合った新しい多焦点レンズを入れたい」といった方への選択肢となります。

多焦点レンズを取り巻く諸事情

日本国内で選定療養に使用できる眼内レンズは厚生労働省の薬事承認を得なければなりませんが、それにはメーカー側に莫大な費用と時間がかかります。一方、米国ではFDA、EUヨーロッパ各国ではCEマークでの承認を受けることで複数の国や地域で幅広く使用できるようになります。
各メーカーともに市場規模の小さい日本向けだけのために莫大な費用と時間をかけて薬事承認を通すメリットがないため、日本向けの単焦点レンズを多く扱っている米国企業(Alcon、J&J)の一部製品だけが薬事承認を取得しています。そのため、多くの新しい多焦点眼内レンズが「厚生労働省未承認の多焦点眼内レンズ」として自由診療で対応するしかないという事情があります。
 
日本国内においては自由診療の治療を受ける場合、保険診療や選定療養にあわせて請求することができない法律(※混合診療の禁止)があるため、自由診療では全額自費負担の高額な手術費用が必要となります。
 

ハロー・グレア現象について

   多焦点眼内レンズでは単焦点眼内レンズに比べて、夜間の運転で車のライトが反射したりにじんで見えたりするグレア・ハロー現象が出やすくなります。特に回折型2焦点の多焦点眼内レンズでは強くでやすい傾向があります。
   唯一、累進屈折型のミニウェルではグレア・ハロー現象がほとんどなく、単焦点眼内レンズと遜色ない良好な暗所コントラスト感度があり、夜間運転の多い方にもお勧めできます。

ハログレアシュミレーターによる術後自覚症状のイメージ比較(※個人差があります)

※情報提供 : ツカザキ病院 
眼科 野口三太朗 先生

単焦点眼内レンズ

 テクニス マルチ

テクニス シンフォニー

レンティス Mplus

ファインビジョン

ミニウェル

  ミックス&マッチ

   計画的に左右別々に性質の違うレンズをいれる方法をミックス&マッチといいます。例えば片方に遠・中2焦点の多焦点レンズを入れ、もう片方に遠・近2焦点の多焦点レンズをいれるといった方法です。
   単焦点レンズでも「モノビジョン」と言って、左右で度数差をつけてレンズを入れる場合があります。片眼はピントを遠くに合わせ、もう片眼はピントを近く狙いのレンズを入れることによって、裸眼での明視域(見える範囲)を広げる方法です。ただし、単焦点レンズでこれをすると、立体感が弱くなり左右の見え方の違いで不具合を感じたりする方もあるので、適応は「もともと左右差があってそれに慣れている方」などに限られること、左右差をつけすぎると「眼鏡で視力差をカバーする際に左右の像の大きさの差(不等像視)がでて眼鏡がかけづらくなる」などの欠点がありました。
   その点、「多焦点レンズでのミックス&マッチ」は「単焦点レンズでのモノビジョン」と違い、左右差の違和感が少ないため、事前に相談して左右に別の多焦点レンズを入れる方も少なくありません。
   効き目に見え方のシャープな単焦点レンズを遠方にあわせていれ、もう片方に多焦点レンズを入れることも、もともとの左右差に慣れている人には選択肢になります。
   両眼視機能が良好な方の場合、片眼で見るより両眼でみる方がよく見えるはずです。これは人間の脳が両眼加算(Binocular Summation)という画像処理をするからです。そのため、左右同じ性質のレンズを入れるのが一般的です。脳は「遠方を見ようとするときは遠方が見えやすい目」で「近方を見ようとするときは近方が見えやすい目」を自然に選択する力も併せ持っていますが、もともと左右差の少ない人では術後に大きな左右差を作ると違和感が出やすく馴染みにくいこともあり、若い頃からの視力差とか、白内障の左右差での慣れ、手術を受けるまでの眼鏡やコンタクトレンズの使い方・合わせ方など生活習慣の違い、見え方に求める重視するポイント(質を重視する距離、瞳孔径にも左右されるコントラストと明視域、暗所でのハロー・グレアの許容、両眼視時の立体感etc.)で、どういったレンズが適切か判断します。個人差や好みもありますので、担当医とよくご相談ください。